熱媒体油を熱板まで届けるのは配管の役割ですが、その油を循環させる「心臓」の役割を担うのが循環ポンプです。ポンプの選定を誤ると、流量不足による加熱不良・スラッジ蓄積・ポンプの早期故障など、システム全体に影響します。今回は熱媒体油循環ポンプの選定について解説します。
📚 230℃シリーズ
なぜ一般的な渦巻ポンプでは対応できないのか
一般的な渦巻ポンプは、軸封(メカニカルシール)によってポンプ内部の流体が外部に漏れないよう密封されています。低〜中温域では問題なく使用できますが、230℃を超える高温の熱媒体油を扱う環境では、メカニカルシールの材質・耐熱性に限界が生じます。
シールが劣化すると高温の熱媒体油が漏れ始め、シール交換のたびにポンプを止めて分解する必要があります。高温域では、シール周りのトラブルが渦巻ポンプの代表的な故障原因となります。
キャンドポンプ(水冷ジャケット式)とは
高温の熱媒体油システムで使われるのがキャンドポンプ(キャンドモーターポンプ)です。一般の渦巻ポンプと根本的に異なる点は、軸封(シール)がないことです。
モーターとポンプが密閉された「缶(キャン)」の中に収まっており、回転軸が外部に出ていません。漏れの原因となる軸封部がそもそも存在しないため、高温・高圧の流体を扱う環境での信頼性が高くなります。
ただしモーター自体が高温の流体に接するため、水冷ジャケットでモーター部を冷やす構造が一般的です。冷却水の確保と管理も設計に含める必要があります。
💡 補足:キャンドポンプは渦巻ポンプより価格・サイズともに大きくなります。また冷却水の配管・管理が必要になるため、システム全体の設計が複雑になります。それでも高温域での信頼性を優先する場合には、キャンドポンプが第一選択となります。
ポンプ選定の基本:吐出量と揚程
ポンプを選定する際の基本パラメータは吐出量と揚程の2つです。
吐出量(流量)
吐出量とは、ポンプが単位時間あたりに送り出せる流体の量です(L/min や m³/h で表します)。前回の記事で解説したように、ヒーター周りでは熱媒体油の流速を2m/秒程度確保する必要があります。この流速を実現するために必要な流量を、配管の断面積と系全体の設計から計算します。
吐出量が不足すると流速が下がり、ヒーター周辺の局所過熱とスラッジ蓄積を招きます。逆に過剰すぎると、エネルギーの無駄やポンプ・配管への過負荷につながります。
揚程(ヘッド)
揚程とは、ポンプが流体を押し上げる力の指標です(m で表します)。配管の長さ・曲がりの数・継手・バルブなど、系全体の圧力損失を計算して必要な揚程を求めます。揚程が不足すると、所定の流量が確保できません。
既製品か、専門メーカーとの設計か
熱媒体油循環ポンプは、カタログから適合品を選ぶ「既製品選定」と、専門メーカーと打ち合わせて最適品を設計する「カスタム設計」の2つのアプローチがあります。
汎用的なシステムであれば既製品でも対応できる場合があります。一方、熱板サイズが大きい・配管が複雑・使用温度が高い・高い稼働率が求められるといった場合には、既製品では最適な性能が出ないことがあります。
私たちが「ここぞ」と判断した案件では、ポンプ専門メーカーと設計段階から打ち合わせを行い、そのシステムに最適な吐出量・揚程・仕様でポンプを設計・製作します。カタログに載っている汎用品とは、信頼性・耐久性・効率の面で大きな差が生まれます。
💡 ZeroPressからひとこと:「とりあえずカタログの近いサイズを選ぶ」というアプローチは、低コストに見えて長期的には高くつくことがあります。ポンプの選定ミスはシステム全体の性能と寿命に直結します。設計段階での適切な選定が、後々の安定稼働を支えます。
📋 この記事のまとめ
- 230℃以上ではメカニカルシールの劣化により渦巻ポンプのトラブルが増える
- キャンドポンプは軸封がなく高温域での信頼性が高い。水冷ジャケット付きが一般的
- ポンプ選定の基本は吐出量(流量)と揚程(ヘッド)の2つ
- 必要流量はヒーター周りの流速2m/秒確保から逆算して求める
- 高負荷・高精度が求められる案件では、専門メーカーとの設計打ち合わせで最適品を製作する
次回は、230℃以上のシステムで使用するバルブの選定について解説します。